午前中は、ボールコントロール練習と元気を出す練習を行った。このチームの選手は、小学生バレー、中学バレーで全国に出場している選手も大勢いる。しかし、覇気がない。声が小さい。元気がない。一番元気なのは、監督だ。そこで、ひらめいたのが、相撲をやらせること。格闘技は闘争心を生む。バスケットのサークルを土俵に見立て、行った。元気な声を出す練習も行った。
「元気な声が出る人3人前に出てきなさい」。私が命じると、恐る恐るリベロの子が同級生2人を引っ張って出てきた。
「動作の前に声を出すこと。声を出さずに動作だけだとコートの中で体が接触して怪我をするよ」。私が声の重要性を説明して、彼女達3人に見本を示してもらった。なかなか良かった。
「いいねえ。その調子だ。明るく、元気に、美しく。これが女子バレーだ」。美しくというスローガンが高校生に響いたのか、その後は見違えるほど声が出てきた。しかし、1時間ほどすると、また元の黙阿弥でおとなしくなってしまう。
よし、次はこの手だ。
「サーブやレセプションをする直前に両足を左右の順で5回足踏みすることを命じた。これは、リズムを作るためである。体が動けば、心が動く。心の動きを声に出すことでリズムができる。
更には、倒立をやらせた。ブリッジもやった。ブリッジ歩行もやった。そして、また技術練習に入って行った。
監督は、その間、教官室で子供たちのために豚汁を作っていた。
「子供達がお腹をこわさなきゃいいんだがね」。私が冗談を言った。
「任せておいてください。時々作るんです。こう見えても料理は苦にならないんですよ」
夕方5時に練習を終えて、子供たちに、監督の豚汁どうだった?と聞いてみた。
「美味しかったです」。
それを聞いた監督は、にこっとして「渡邉さん、そうでしょう?ね!ね!・・・しかし・・・」。
「しかし、どうしたの?」 。
「どうも、私だけお腹の調子が悪いんです!」と言って、小走りで男子トイレの方向に向って行ってしまった。
夜になって、2人で新潟市内の焼鳥屋さんに食事に出かけた。食後、学校に戻り、敷地内にある合宿所に戻った。雪が降り始めた。夏場であれば、50人は宿泊できる畳敷きの大広間が3つある。風呂にお湯を入れて、2人で入った。湯船は8人は入れるほどの大きさだ。2人一緒に湯船に入ってみると、ぬるい。お湯を継ぎ足すが、なかなか温まらない。外は零下だ。なんか、二人の体温で湯を温めているようだ。監督が私の方に近づいてくる。監督と私しかいない、暗いがらんとした合宿所で、2人で肌が触れ合いそうにして湯気の立たない風呂場にいる。なんか江戸時代の水責めにあっているような錯覚がした。
新潟県で生活することは大変だ。ラーメンがいくら美味しくとも、日本酒の熱燗がいくら美味しくとも、寒いのは嫌だ!部屋にガスストーブがあったのは救いであった。布団も温かかった。監督のいびきの方が、私の寝言よりも一瞬早く始まり、私も直ぐに深い眠りに落ちた。外は、まだ雪が降っていた。