2015年7月7日火曜日

07,July 2015 写真からのゲーム分析-4 セッター

本日はセット(set)を見てみましょう。

まず初めに、私がなぜ「セット(set)」という言い方をするかを申し上げます。日本では、未だにバレーボールの専門用語が、国内で統一されていません。統一するということは、共通認識になることですので、理解の迅速化につながり、またバレーボールの普及にも関係してきますので、メディアの協力も得て、数年のうちに統一した呼称を使いたいものです。

さて、セット(set)ですが、日本では今でも「トス(toss)」と呼んでいます。正確には、トスとは、ボールを下方から上方に放り上げる動作を意味します。従って、サーバーがサービスを実行するためにボールを「トス」することは、表現として間違っていません。また、スパイクの基本練習などで、コーチがボールを手に持って、スパイカーに「トスする」ことも正しい表現です。この「トス」技術はコーチに必須のテクニックでもあります。野球でも「トス・バッティング」という用語を使っています。やはり、ボールを下方から上方に放り上げて、スイングフォームを作るためにバッターに打たせています。

しかし、セッター(setter)がスパイカーにボールを送る動作はセット(set)とFIVBでは定義しています。日本でも、そろそろ、セットに統一しませんか。なお、カンボジアでは、セッターのことをパッスール(passeur)と言います。これはフランス語であって、植民地時代の名残です。こちらも、セッターとセットという用語で統一中です。



用語に関しての前置きはそのくらいにして、本論に入ります。

上の写真は、第3戦の古豪インドネシアとの試合です。カンボジア(黄色)のセッター(setter)がAクイックのセットをしています。私は、このようなネット際での両足が床に着いてのセットを推奨していません。私は、セッターには常にジャンプしてのセット(jump set)を要求しています。

この写真の場合も、セッターがネット上端の白帯より上でボールをセットしていれば、クイッカーは更に速いテンポでボールを打つことができます。つまり、相手ブロッカーがジャンプしてネット上端より上方に腕が出るよりも先にボールを打つことができます。また、セットされる位置が高ければ、スパイカーは、ボールと相手ブロッカーを同時に視野に入れることができ、相手ブロッカーをかわして、ボールを打つ方向を変えることができます。

写真の場合ですと、スパイカーは速いスピードでセットされたボールを打たなければいけないので、ボールを打つことだけに精いっぱいで、スパイクコースを変える余裕はありません。また、ブロッカーもセットされた位置(ボールがセッターから離れた位置)からスパイカーのヒット位置まで距離と時間がありますのでブロックし易いという状況になります。

写真の場合は、結局、相手のブロックに微かに触れながら決まりました。しかし、この後のAクイックは、ほとんど止められました。カンボジアのセッターは、なぜ止められるようになったのか理解できていませんでした。前回にも書きましたが、彼は、1か月前にナショナルチームに合流したベテランセッターでしたので、私の指導が彼に行き届いていなかったのです。カンボジア国内では彼流のクイックが決まっていても、国際大会では、さすがに簡単には決まりません。

私は第2セットになって、途中でその第1セッター(31歳、174cm)をベンチに下げて、1月から指導してきている第2セッター(21歳、186cm)セッターを投入しました。彼には、普段から、ジャンプでセットするように指導しています。そして、相手のブロックシステムがバンチ・システム(中央に集まっている)なので、中央からのクイックは囮で、80%のセットはサイドに上げてサイドからライン打ち(ストレート打ち)をさせるように指示しました

下の画像は、2008年北京オリンピックで優勝したUSA男子チームのセッターのボール選手です。

2mという長身を生かし、非常に高い位置でボールをセットしています。高身長セッターの利点を十分生かしています。相手ブロッカーは、リードブロック(セットされた直後に反応するブロック)で対応していますが、これではクイッカーのボールをヒットするタイミングに全く間に合いません。もし、コミットブロックのタイミングでブロッカーが跳べば、ポール選手は、クイッカー以外のスパイカーにセットするでしょう。


実は、カンボジア国内での練習試合(5月に3ゲーム)でも、第2セッターの彼がプレーするほうが勝利する確率が高かったのです。結果として、第2セットは、22点まで得点を伸ばしました。




0–3


14-25 

22-25 

18-25

第3セットは、そのまま第2セッターを使って通せば、もう少し点数を伸ばせたかもしれません。練習試合であれば、今後のポテンシャルの高い若いそのセッターを使ったでしょう。しかし、総合力ではベテランセッターのほうが力が上でしたのでベテランセッターをスタメンで使いました。さらに、彼は今大会を最後に引退すると表明していたので、私も彼への温情が働きました。

試合内容がリードしているのであればまだしも、不利な情勢で温情が働くようでは、試合を半分捨てているようなものです。私の采配ミスです。

相手が各上の場合は、常套手段ではなく、思い切った戦術で対応するべきでした。この3セット目はスタートから、私の戦術を理解していて、ブロック力もある若いセッターで行くべきでした。

次のSet技術統計表をご覧ください。
 
Average Setとは1セット平均のランニングセット数のことを意味しており、 計算式は、 ランニングセット数÷セット総数です。
 
Running Setsというのは、 セット本数のことですが、FIVBの定義は次の通りです。
・ブロックがつかなかった(1枚またはノーマークとなった)セット(トス)の本数のことで、
①セッターの技量により、相手ブロックを1枚またはノーマークにした場合、
②レシーブが悪く、繋ぐのが精一杯のボールを、セッターの技量によってファインプレーのセットを上げた場合、
以上のことを意味します。
※但し①、②いずれの場合も、その後のアタックが得点とならなければStill Setsの数に分類されます。
 
 

表の中の第1位は、優勝したタイランドのセッターです。カンボジアのセッターは第8位にランクされています。つまり、出場8チームの中で最下位ということです。
実は、カンボジアのサーブレシーブ(reception)率は、51.65%で全体の第2位です。つまり、セッターがクイックで相手ブロックを揺さぶってブロッカーのマークを外すことができたのです。しかし、自分勝手な第1セッターは、相手のブロッカーを見もせずに、自分の好みのクイックを多用し、結果としてブロックに数多く捕まりましたが、そのことを数値が裏付けています。 


全敗で得セットも0で、全体で最下位になったシンガポールですが、セッターはセットのボールを上手に左右に散らしてブロッカーの的を外していました。彼はセッター部門で第4位に入っています。
 

 


Non-Scoring Set

Rank

Name

Runing Sets

Faults

Still Sets

Total Attempts

Average Set

1 Thai


Thailand


161

-

147

308

10.06

2


Philippines


95

3

123

221

9.50

3


Indonesia


94

3

110

207

7.83

4 Sing


Singapore


67

9

107

183

7.44

5


Malaysia


81

3

127

211

7.36

6


Vietnam


102

7

197

306

6.80

7


Myanmar


75

2

150

227

6.25

8 Cam 


Cambodia


54

3

113

170

6.00

9


Cambodia


13

-

15

28

1.44

10


Malaysia


13

-

29

42

1.18

810

56

1577

2443

17.23
 
 
 

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